山武市埴谷 放棄住宅地 (9) 
 メインブログの開設当初に、僕は山武市内のある放棄分譲地の記事を投稿したことがあった。そこは、家が一軒もなく住民がいない代わりに、馬の飼育が行われていた(もういないらしい)という珍奇な分譲地で、当時の僕は、こんなところに住む人いるのか、といったような厳し目の評価を下していたが、その後、Twitterで何名ものフォロワーさんより、その分譲地の見学に行ったことがありますとのお話を伺った。

【参考】「山武市埴谷 封鎖された密林の分譲地

 最初は驚いたが、どうやら、周囲が森に覆われた、家が一軒もないロケーションが逆に魅力的であるようだった。今になってみれば、僕もその魅力はよくわかる。ズラリと隙間なく家が並ぶ住宅地で良いのなら、何もわざわざ不便で余計な生活コストの掛かる限界分譲地(地価は安いが)である必要がなく、むしろ今の限界分譲地は、そうした隠れ家的ニーズのほうが案外強いのかもしれない。
20190330_124737
 しかし困ったことに、家が一軒もない放棄分譲地というものは、そのほとんどが建築確認申請が通らない、つまり建築不可の分譲地である。上記の山武市の放棄分譲地も同様だ。

 多くの限界分譲地を抱える北総の自治体は、その分譲地の開発当時はすべて都市計画区域外であった。そのため当時は建築確認申請も必要なく、販売時に法律上の接道状況が問われることはなかったのだが、その後区域指定を受け、県が道路認定を進めていく中で、家が一軒も建てられていなかった放棄分譲地内の道は、建築基準法の道路として認められず、建築確認申請の通らない分譲地になってしまった。
埴谷 農村の分譲地 (4)
 ただ、これも厳格に統一された基準があるわけでもないようで、無住の分譲地の中でも、きちんとアスファルトで舗装され、一見すれば今でも車両の通行が可能そうに見えても、建築基準法上の道路としては認定されてなかったり、逆に今では徒歩でも進入を躊躇うような荒れ果てた道でも、台帳上では道路認定を受けているところもある。

 また、ごく一部だが、既存の建物があるのになぜか未だに道路認定を受けられていない分譲地もあり、そんな分譲地はもちろん再建築不可である。その無情な仕打ちはまさに「住宅地」に対する死刑判決と言っていい。
20190330_124705
 その道が建築基準法上の道路に該当するかどうかは市町村役場でも調べられるが、ごくまれに土木事務所と役場で見解が異なることもあるので、管轄の土木事務所に問い合わせるのが確実である。

 ただし地図上では一本の直線道でも、部分的に認定されていなかったり、道路の種類が異なっていたりすることもあり、口頭では説明が難しいので、面倒でも直接出向いて台帳を確認してもらうのが良いと思う。

 もっとも本来は、こんなものは不動産屋が行う仕事で、その物件が無道路(接道がない)の場合は、重要事項説明書にその旨を記載しなければ100%トラブル不可避だが、さすがに無償譲渡も珍しくなくなってきた昨今の限界分譲地市場では、扱う業者も限られてくるので、今後は自分で調査する必要も出てくるかもしれない。

 なお、基本的には専門の業者しか問い合わせないことなので、職員の方も「そこは1項3号ですね」という感じで、遠慮なしに専門用語で解説してくるが、そこは聞き直せば丁寧に解説してくれる。
IMG_20210829_131147
 ところで、以前山武市の海岸近くにある、道の両脇に篠竹が迫っているような、荒れた分譲地(無住ではない)の道路の種類を調べようと山武市役所を訪ねたところ、台帳上では一応道路認定は受けてはいたものの、その横に「要調査」の注記があったことがある。

 聞けば、元々は道路認定はされていたのだが、今は荒れていて道路として利用されている実態が確認できないので、建築確認申請を受けたときは現地での再調査を要する、という意味とのことだった。

 確かにその台帳を見ると、今では篠竹が群生してまったく足を踏み入れられないところまで道路として描かれていて、なるほど状況によっては認定が取り消されてしまうこともあるのだと初めて知ったのだった。これは今後、管理不全の分譲地で同様の事例が増えていくかもしれない。
IMG_20210729_142758
 ということで、隠れ家的なロケーションで、なおかつ建築可能な放棄分譲地というものは、実は結構限られていて探すのが大変なのだが、見ていると意外とそういう需要もありそうな予感もするので、今後は機会があれば、メインブログでそういう建築可能な放棄分譲地も紹介していきたい。いくつかはその所在を掴んでいる。

 しかし、まがりなりにも住宅用地の名目として販売されたはずの分譲地でありながら、その利用を希望する場合、まずは建物が建築可能かどうか調べなくてはならないというのも奇妙な話である(これは都市部でも同じだとは思うが)。

 そして、不動産会社に売却の仲介を依頼している売主は業者から事情を聞いているだろうが、そうではない一部の地主は、資産として購入したであろう自分の「住宅地」が、いつの間にか単なる地面の切れ端に変わり果てていることに、おそらく今でも気付いていない。
IMG_20210618_124645